【NASA | 海外科学英語記事】火星ヘリコプター Ingenuity について知っておくべき 6 つのこと ― 6 Things to Know About NASA’s Ingenuity Mars Helicopter

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Image courtesy of NASA/JPL-Caltech
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NASA の火星探査ミッション Mars 2020 Perseverance では、野心的な実験として火星でのヘリコプター飛行が計画されています。
Ingenuity と名付けられたこのヘリコプター飛行実験にまつわる事実やストーリーを 6 つのポイントにまとめています。

6 Things to Know About NASA’s Ingenuity Mars Helicopter

NASA | 6 Things to Know About NASA’s Ingenuity Mars Helicopter より引用

この野心的な火星ヘリコプター飛行実験について、専門用語や英語表現と合わせてみていきたいと思います。

Contents

概要

こちらの記事でも紹介した NASA の火星探査ミッション Mars 2020 Perseverance には、実は飛行実験という任務もあるのです。

When NASA’s Mars 2020 Perseverance rover launches from Cape Canaveral Air Force Station in Florida later this summer, an innovative experiment will ride along: the Ingenuity Mars Helicopter. Ingenuity may weigh only about 4 pounds (1.8 kilograms), but it has some outsize ambitions.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

飛行実験任務は the Ingenuity Mars Helicopter として、Perseverance とは別のミッション名が付けられています。
ヘリコプターの重さはわずか 4 パウンド≒1.8 キログラムほどですが、そのサイズとは裏腹に野心的なミッションなのです。

outsize は 特大の・並外れて大きな という意味で、ambition は 野心・大志 なので、outsize ambition ということは 並外れて大きな野心 ということですね。

1.これは飛行実験です

まずはっきりさせておきたいのは、このミッションは technology demonstration 技術実証 というタイプの実験である、ということです。

Ingenuity is what is known as a technology demonstration – a project that seeks to test a new capability for the first time, with limited scope.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

with limited scope 限定された活動範囲/活動目的での と、NASA にしては珍しくわざわざ断っているように、飛行移動能力そのものを見極めるための実験であることを明確にしています。

ヘリコプターの仕様が簡単にまとめられています。

Ingenuity features four specially made carbon-fiber blades, arranged into two rotors that spin in opposite directions at around 2,400 rpm – many times faster than a passenger helicopter on Earth. It also has innovative solar cells, batteries, and other components. Ingenuity doesn’t carry science instruments and is a separate experiment from the Mars 2020 Perseverance rover.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用
  • 羽根は特製のカーボンファイバーブレードが 4 枚
  • 2 つのローターに羽根を設置
  • ローターの回転速度は 2,400 rpm(毎分 2,400 回転):これは地球における旅客ヘリコプターよりもずっと速い
  • 革新的な太陽電池、バッテリー、その他の機器を搭載
  • 科学実験用の装置は搭載していない
  • Mars 2020 Perseverance Rover ミッションとは別の実験である

Perseverance にくっついて一緒に火星まで連れてってもらうけど、火星では飛行実験に集中させていただきます、という感じですかね。

2.地球外の惑星における制御飛行として初の試みです

当然、地球での飛行実験とは異なる様々な課題があります。

For one thing, Mars’ thin atmosphere makes it difficult to achieve enough lift. Because the Mars atmosphere is 99% less dense than Earth’s, Ingenuity has to be light, with rotor blades that are much larger and spin much faster than what would be required for a helicopter of Ingenuity’s mass on Earth.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

1 つは、火星の大気は非常に薄いため、離陸そのものが難しいということです。
火星の大気は地球に比べて 99 % も薄いため:

  • 機体の重量は軽くなくてはならない
  • 回転翼はずっと大きい必要がある
  • ずっと速く回転する必要がある

ということです。

 It can also be bone-chillingly cold at Jezero Crater, where Perseverance will land with Ingenuity attached to its belly in February 2021. Nights there dip down to minus 130 degrees Fahrenheit (minus 90 degrees Celsius).

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

また、着陸地点の Jezero Crater の気温は華氏マイナス 130 F = 摂氏マイナス 90 C と、まさに骨まで凍り付くような寒さなのだそうです。

bone-chillingly は 骨まで凍り付くほどの寒さ という意味です。
bone が 骨 で、chillingly は 寒い という意味なので、そのままですね。
日本語でも同じ表現をしますよね。

In addition, flight controllers at JPL won’t be able to control the helicopter with a joystick. Communication delays are an inherent part of working with spacecraft across interplanetary distances. Commands will need to be sent well in advance, with engineering data coming back from the spacecraft long after each flight takes place.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

さらに、地球の指令室から火星にいるヘリコプターをその場でリアルタイムで操作するわけにはいきません。
火星着陸後に送られてきたデータを分析した後に、十分に前もって制御指令情報を送らなくてはならず、そのコマンドに従って Ingenuity は自律飛行するのです。

 

3.Ingenuity というのはこのマシンにふさわしい名前です

Ingenuity という名前は、一般の高校生による応募から付けられたそうです。

High school student Vaneeza Rupani of Northport, Alabama, originally submitted the name Ingenuity for the Mars 2020 rover, before it was named Perseverance, but NASA officials recognized the submission as a terrific name for the helicopter, given how much creative thinking the team employed to get the mission off the ground.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

Ingenuity は 創意工夫 という意味です。
チームメンバーも、このミッションを軌道に乗せて実現させるにはどれだけ創造的思考が必要か、というのを身に染みてわかっています。
なのでこのミッション名 Ingenuity はふさわしい名前だということなのですね。

4.工学的な偉業をすでに実証しています

このミッションが正式に採用されるまでに、火星の環境を想定したあらゆる検証が行われており、それを通じて工学的な可能性と能力を切り開いてきたのです。

In careful steps from 2014 to 2019, engineers at JPL demonstrated that it was possible to build an aircraft that was lightweight, able to generate enough lift in Mars’ thin atmosphere, and capable of surviving in a Mars-like environment. They tested progressively more advanced models in special space simulators at JPL.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

2014 年から 2019 年にかけて、JPL(ジェット推進研究所)において繊細で詳細な検証を重ねてきたようです。
そして、軽量な飛行体の作製、火星の薄い大気でも離陸可能であること、火星のような環境でも機能すること、を実証してきました。
JPL には特別な実験チャンバーがあり、そこで火星の環境を模擬的に作り出してその中で実験を重ねてきたようですね。

5.チームは一歩ずつ進んでいきます

火星での飛行実験本番に至るまでにもいくつものステップがあり、それをひとつずつクリアしていく必要があります。

The milestones include:
-Surviving the launch from Cape Canaveral, the cruise to Mars, and landing on the Red Planet
-Safely deploying to the surface from Perseverance’s belly
-Autonomously keeping warm through the intensely cold Martian nights
-Autonomously charging itself with its solar panel

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用
  • 地球からのロケット発射と、火星への着陸に耐えられるか
  • Perseverance から離脱して火星の地表に安全に展開できるか
  • 非常に寒い火星の夜を通じて、自律制御的に機体を暖められるか
  • 装備した太陽電池パネルを使って、自律制御的に充電できるか

これらのステップをクリアして初めて飛行実験にたどり着くのです。
最初の飛行に成功した場合は、火星での30日間(地球での31日間に相当)の間にさらに 4 回の飛行実験を試みる予定だということです。

6.この実験が成功すれば、将来の火星探査ではさらに野心的な飛行実験が行われるでしょう

そしてここで学んだことは将来に活かされていくのです。

Ingenuity is intended to demonstrate technologies needed for flying in the Martian atmosphere. If successful, these technologies could enable other advanced robotic flying vehicles that might be included in future robotic and human missions to Mars.

NASA | 6 THINGS TO KNOW ABOUT NASA’S INGENUITY MARS HELICOPTER より引用

火星大気中での飛行に必要な技術が何であるかを実証することが Ingenuity の目的です。
そしてこの実験が成功すれば、ここで実証した技術をさらに発展させて、将来の有人火星探査へと活かしていくことを考えていますね。

用語と表現

launch:打ち上げる・開始する

launch は (ロケットなどを)打ち上げる という意味です。
launch from Cape Canaveral Air Force station は ケープ・カナベラル空軍基地からの打ち上げ となります。
Cape Canaveral はフロリダ州にあるロケット発射基地ですね。
また launch には 開始する という意味もあります。
日本語の会話でも ローンチする とか言いますよね。

Martian:火星の

Mars が 火星 で、Martian はその形容詞形で 火星の という意味です。
ちなみに火星のことを Red Planet と表現したりもします。
これは火星が夜空で赤く輝いていて、実際の火星の地表も赤土で覆われているからですね。

inherent:固有の・内在する

inherent は 固有の・生まれつきの・内在する という意味です。
inherent part of ~ は、~に備わっている固有の部分 ということですね。
派生語がいくつかあります。

  • inhere:内在する・生来備わる
  • inherence:固有・生得
  • inherently:本質的に・生得的に

waypoint:通過参照地点

waypoint は、経路上にあって何か目印となるような地点 という意味合いです。
ここを通過したらこのイベントが発生する、というための目印のような場所ですね。

interplanetary:惑星間の

inter– は ~の間の という意味合いの接頭辞で、planet は 惑星、planetary はその派生語の形容詞で 惑星の という意味ですので、合わせて interplanetary で 惑星間の となります。

ここでは ” Communication delays are an inherent part of working with spacecraft across interplanetary distances. ” と言っていますが、地球と火星の間は最も近い時でも 5,700 万キロメートルほど離れていて、光の速度でも片道 3 分以上かかります。
これだけ通信の遅延があるとリアルタイムでの操作はできませんよね。

terrific:素晴らしい・恐ろしい

terrific には 素晴らしい というポジティブな意味合いと、恐ろしい という意味もあります。
派生語がいくつかあります。

  • terrible:恐ろしい・非常に悪い・ぞっとするような
  • terrify:恐れさせる・怖がらせる

get ~ off the ground:~を軌道に乗せる・順調にスタートさせる

順調に軌道に乗っていく、という意味です。
飛行機が離陸に成功するようなイメージですね。

autonomously:自律的に

autonomously で 自律的に という意味です。
autonomous は派生語の形容詞形で 自律した という意味です。
自動運転車は autonomous car と言いますね。

deploy:展開する・配置に就く

deploy は 配置に就く・配置する という意味です。
軍隊の展開なんかで使われる単語ですが、ビジネスの場面でも使いますね。
Sales teams have been deployed in over 10 countries. 営業部隊が10か国以上に展開されている。

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